株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文/定量リサーチ部 西口雅喜
調査結果の集計表をご提出したときに、「このデータの、どこをどう見ればよいのですか?」といったご質問をされることがあります。
それは、こちらの説明不足による部分もありそうで反省点でもありますが、「それだけではなかろう」…と感じます。
「大量のデータの海(沼?)」から必要な情報を見つけ出し、ストーリーを見出していくのは、やや骨が折れる部分でもあり、リサーチャーの腕の見せ所でもあります。今回は通常の定量調査でのデータ分析を前提に話を進めます。(※今回、多変量解析はわき役とします。)
プロダクト評価のように、製品Aと製品B、既存の商品といった比較対象があり、それとの関係に焦点を絞れる場合はまだ良いのですが、意識・実態把握調査(U&A調査)では、漠然とデータを追っていると「データの海」に溺れてしまうこともあります。
では、どうすれば「データの海」に溺れず、データを読みといていくことが出来るのでしょうか?個人での経験則による部分となりますので、絶対的な方法論ではなく恐縮ですが今回はそこにスポットライトを当ててみたいと思います。
大きな流れは以下となります。
【1】 まず関心のあるところを見る
【2】 大まかな傾向をつかむ
【3】 プレークダウン、質問間クロス
【4】 自由回答を見る
【5】 何か見えそうなら多変量解析をする
【6】 この調査以外にヒントはないか?
【7】 で、結局は何が言えるのか?
【1】まず関心のあるところを見る
当たり前のようでいて、そうでもないのがこの点です。「本を最初から読む習慣」がそうさせるのか、人はなぜか「集計表の1ページ目」からデータを読み始めたりしてしまいます。
データ量が少なければ問題はありません。
しかし、大量のデータを前にした場合は、1ページ目から読み始めるのはむしろ集中力の減退を招き、仮説や、おいしいデータにたどり着く前に疲れ果ててしまっているかもしれません。
むしろ「満足度」や「購入意向」、「実際の行動」など一番知りたかった質問から見るなど、自分の関心から始めてしまった方が調査結果を掴みやすくなります。贅肉のない「最小限の骨組み」から入る発想です。
まずは、関心のある質問を「つまみ食いする感覚」で確認し、マークをつけたり、気が付いたことを別紙に書いておくなど、大事な点を優先して把握します。
次にご説明しますが、単純集計(GT)で読み進めて、必要であれば年代別などブレークダウンをを見るという程度で大丈夫です。
もし、ここで骨組みが完成すれば、報告書のイメージが出来てしまうこともあります。
【2】大まかな傾向をつかむ
次に集計表の1ページ目から見るとしても、細かい部分から見始めると全体像が見えにくくなります。まずはGT(grand total)で全体傾向を把握します。
GTとは、「単純集計」のことで、1000sの調査なら1000s全員の回答の合計です。男女別、年齢別などで分けない全体の集計結果です。
このGTだけでざっと結果を見てしまうのが、道に迷わない一つの方法であり、「あらすじを掴む」感覚です。
もちろん、「○○ユーザー200s」、「△△ユーザー200s」…といった設計となっており、「全体ではなくブレークしたデータにこそ意味のある調査設計」もあるので一概には言えませんが、それでもGTを見ると、おおまかなストーリーが見え始めます。
ここで注目すべき数字(意外と多い、意外と少ない数字など)があれば、次の段階で細かく見て行きますので、マークをするなどしておいてください。回答が多い方から見るのが人情ですが、少ない方に面白い情報が隠れていることもあります。
具体的事例としては当初3%位だった「デジタルオーディオプレーヤー」のその後の伸長は目を見張るものがありました。
また、グラフ化機能が付いている集計ソフトもありますので、多少荒いグラフであっても、まずはGTをグラフ化して視覚化してしまうのも一つの方法です。
【3】ブレークダウン・質問間クロス
【ブレークダウン(集計軸)】
集計表の横軸に年代別、地域別、家族構成別と言った「分析の視点」を並べたものがあります。これをブレークダウン(breakdown)、集計軸、分析軸などと呼んでいます。
ブレークダウンは、とにかく「この視点で全質問を分解して見ることが出来る」という発想であり、「差が出そうだ」と思われる視点を含ませておきます。保有メーカー別、満足度別、購入意向別など、色々な視点がありますので、比較的多くの質問に共通しそうな点を予め選んでおきます。
「○○ニーズが高いのはどの層で、低いのはどの層なのか?」といった「層別の比較」、あるいは「全体との差」を見ていきます。
ただ、このブレークダウンが厄介でして、差があるところはあちこちに細々と点在しています。全部を見て行くとキリがありません。先ほどの【1】【2】で気になったところを中心に見て行く、あるいは「満足度別」「ブランド別」だけは全て見る…と【視点に優劣をつける】ことで、労力をかけすぎないようにしてください。
「有意差検定を実施し、有意差のあるところだけを見る」という機械的なルールを使う発想もあります。これも労力低減につながります。
もっと簡易的に、「全体と比べて10ポイント以上上回る、下回る数値にマーキングをする」といったやり方もあり、傾向を俯瞰するためによく使われる方法となっています。ブレークダウンされたデータは「宝の山」でもありますが、「データの海」でもありますので数値の羅列に翻弄されないよう、お気を付けください。
【質問間クロス】
この製品の「香りの好嫌」と、「購入意向」は関係があるのか?といった二つの質問の関係性を見るのが「質問間クロス」です。
ブレークダウンは煩雑になりすぎないよう、あまり細かい質問を含めないことが多いため、特定の具体的な質問同士は別途「質問間クロス」をかける方が現実的です。
「環境意識の高さと、心のゆとりの有無は関係するのか?」
「パッケージの好き嫌いと購入意向の関係は?」
「事前期待と購入後の満足の関係は?」
「広告接触と購買の関係は?」
…など気になるところを見ていきます。(質問間クロス以外に、散布図など別の方法を用いることもあります。)
質問間クロスは「分析らしい分析」といいますか、「次々に仮説をぶつけて行く行為」ですので、やりがいがあります。
しかし、小さい発見が大量に見つかるとむしろまとまりがなく「混乱の原因」となってしまうこともあります。次項でご説明する「多変量解析の使用」もあわせてご検討ください。
そして「三重クロス」、「四重クロス」といった「クロス集計を重ね、サンプル数が小さくなる」方に向かうケースでは、「有意差検定をしてもほとんど有意差が出ない程小サンプル」になるケースもあるのでお気を付けください。(よく見たら15sでクロス分析をしていた…など)
また、「疑似相関」と言われる「よく考えたら当たり前なこと」もありますのでご注意ください。「子どもでは年齢が高いほど、身長や体重が増える」「家庭で家族人数が増えるほど光熱費が高い傾向がある」といった、よく考えたら「当たり前」の関係性です
質問間クロスは分析作業としてやりがいがある分、「迷宮に迷い込みやすい分析」でもあります。
【1】【2】に戻って全体を見渡すことで、ルート(根っこ)の部分に戻ることも大事です。「登山で遭難したら戻って山頂を目指せ」…の法則とも言えそうです。
【4】自由回答を見る
ここで突然毛色の違う作業が出てきます。そう、「自由(記述)回答の確認」です。【4】と分類しましたが、もっと早い段階で見て頂いても問題ありません。自由回答に「なぜそういう回答になったのか?」「回答の背景には何があるのか?」を探るヒントが隠れているかもしれません。
コーディングして自由回答を集計するケースや、回答をまとめて件数をカウントすることもありますが、「生の回答」の方が文脈や背景が見えやすく、気付きがあるものです。
特に「当初の仮説」でカバーしきれなかった点は、自由回答で気が付くことも多くなっています。なお、自由回答では「数件の回答」であっても、次回の調査で選択肢を作成して聞くと「数十%の回答」に膨れ上がることもあり、そうそう侮れないものです。
(たまに、自由回答で「調査が長すぎます」などとお叱りのコメントを頂くこともあり、そういう意味での気づきもあります。)
全て選択肢(プリコード)で構成され、「自由回答がない調査」もありますが、コストや翻訳などの問題がなければ、自由回答を1、2問位は入れておくことをお勧めしています。
【5】何か見えそうなら多変量解析をする
通常、多変量解析実施時は「最初から実施を前提とした聴き方」をしておきますので、「後付けで実施」というのはあまりお勧めしていません。しかし、数問の傾向から「何か共通した傾向」がありそうに思える場合には多変量解析をしてみると思わぬ発見が得られることがあります。
「こんな潜在的な意識がある」…といった気づきがあるかもしれません。
30問の意識項目に何らかの共通項があり「4つか5つくらいの要素がありあそうだ」…というケースでは、「因子分析」、「主成分分析」、あるいはややトリッキーな使い方ですが、項目に対しての「階層クラスター分析」を実施することがあります。
「因子分析」「クラスター分析」「重回帰分析」「共分散構造分析」など、課題に応じてトライしてみて下さい。実際には、課題や聴取の仕方で「できる分析」は限られますので、書籍を頼ったり、詳しい方に相談しつつ注意してご利用ください。
【6】この調査以外にヒントはないか?
「何かの数字が突然増加した、あるいは逆に突然減少した。」といった予想外の傾向があり、調査結果を探してもその原因が見当たらないことがあります。「最初の仮説が甘かった」…というのも一つの真実ですが、調査で聞いていることで「世の中の動き全て」を網羅するのは難しいため、調査結果以外に答えを探しに行くことがあります。
自社での過去調査、公的な統計をはじめ、公開されている様々な情報など別の角度からのアプローチしていきます。
調査結果のフレームをいったん外して、視野を広げてみることも大事です。
この市場ではなく、「類似している/同じ対象層で活性化している別の市場」にヒントがあるケースもあり、よりマクロ的な視点で市場を俯瞰してみると、思わぬ答えにたどり着くかもしれません。
しょうゆでお馴染みのキッコーマン社が「ゼリー飲料市場」に参入した記事が参考となったのですが、現在はリンク切れとなっています。ゼリー市場において増加する女性層と健康志向の高まりから、野菜ジュース「デルモンテ」ブランドを携え新規参入となった背景のようで、一見別カテゴリーとなる市場にも勝機を見出した一例といえます。
【7】で、結局は何が言えるのか?
仮説も多く、質問数も多い調査の場合、小さい発見も多く細部は充実しやすいものですが、全体として「だから結局何?」という部分が見えにくくなりがちです。「この調査では30もの発見がありました!」と報告されても印象に残りにくく、アクションにつながりにくくなります。「ただの調査結果はいらない、インサイトが必要である!」という議論もありますが、それは分析だけの話ではなく、最初の調査設計や、調査票などの仕掛けも含めての話ですので、本稿ではストーリーを見出すところまでの部分にフォーカスしています。
そこで、発見した事実をつなぎ合わせ、ストーリーを形作ることを考えます。「こういったネガティブな意識があるが、○○なニーズは顕著であり、以下のターゲットで、このような機会がある!」というような方向性を示したいものです。
モバイル用のノートPCを例にストーリーを考えますと…
ワイド画面になると「画面の縦向きの広さ」が狭くなるため、今よりさらに「大きな画面」を求める声が強い。
一方で「小型・軽量で持ち歩きやすいこと」「電池の持ち時間が長いこと」も重視度が上昇している。
一見すると矛盾するニーズであるが、ターゲット層のビジネスマンは「A4の書類の入るカバン」を持ち歩いており、
「書類のように薄い」など「PCが大きくなっても携帯に不便さがないもの」であれば受容される可能性がある。
…といった筋書です。
ここまで綺麗にまとまらないとしても、「小さい発見から何か大きな流れを見いだせないか?」という発想で「結果的に何がいえるのか」を形作っていきます。もちろん、「事実の把握」や「検証」が中心であり、ストーリーまで求められないケースもありますので、ストーリーを見出す前に「この調査で何が求められるのか?」という事前の確認は必要です。(インサイトどころか、推測は不要であり、事実把握のみをして欲しいというご要望もあります。)
ただ、調査をするからには、記載しないとしても【この調査から結局は何がいえるのか?】を意識した方が良いでしょう。
内輪ネタ的ではありますが、「一番苦労する」のはほとんど何も変化や差がない時です。変化や差がないこと自体も発見ですが、インパクトに欠けるためそのあたりが悩ましいところです。
また、論文などによく記載されていることとして、「この調査で残された課題、新たに生まれた課題」といった「解決され切っていない点」を明示することもあります。一回の定量調査で【全てが明らかになり、何の疑問も残らない】ということは稀有であり、大体は何か引っかかりが残ります。
その引っ掛かりこそが「PDCAサイクルを回す価値」であり、次のアクションのヒントとなります。
● 次につなげる
むろん、「分析」や「報告書作成」に手間暇をかける余力や時間がなく、「ありがちな報告書を作成するのが精いっぱい」というケースも多々あると思います。その場合であっても、「あと1日あれば何ができるか」、「もし提言を書くなら何を書くか」など自分の中で反芻すると多少は次につながるものがあると感じています。
もちろん、私自身も上記全てを毎回実施しているわけではなく、経験の棚卸として整理したものとなります。また、個々人でアプローチは異なると考えており一例のご紹介という位置づけとなります。
その点をお含みおき頂き、何かのご参考になれば幸いです。
▼内容の一部をyoutube動画でもお伝えしています。よろしければ記事とあわせてご覧ください。
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