JMAの50周年事業として6回にわたって、様々な業界の方との対談を行う第5弾。今回は、本田技研工業で購買確率を向上するための戦略立案・効果検証に取り組みながら、アカデミックな研究にも従事している加藤さんをお招きし、組織が新しいプロジェクトを進めていくときに重要なポイントについてお話いただきました。様々な知識と知見を持つ加藤さんならではの興味深い対談となりました。
出席者:加藤 拓巳さん、牛堂 雅文
Profile
加藤 拓巳
三菱電機を経て、2014年に本田技研工業に入社。商品企画・ブランド戦略を中心に、購買確率を向上するための戦略立案・効果検証に取り組む。現在、筑波大学ビジネス科学研究科博士後期課程に在籍。統計学・機械学習・自然言語処理等を活用し、デザインやブランドという感覚的になりがちな領域における意思決定の高度化に関する研究に従事。
本田技研工業 日本本部 地域事業企画部 ビジネスアナリティクス課 所属
牛堂 雅文
20年以上一貫して消費者理解を行うマーケティング・リサーチに従事し、日用雑貨、自動車、CS調査、海外での観察調査など多数のプロジェクトを経験。各種ツールを活用したリサーチを得意とし、開発や導入を行う。アカデミック、各種テクノロジー、ベンチャーなど外部との接点が多い。2014-2016年に日本マーケティング・リサーチ協会カンファレンス委員会委員長として業界活性化に取り組んだ。リサーチャーネットワークである「JMRX」共同主催者。
価値づくりの4つの基盤
牛堂:加藤さんには以前、私が共同主催するリサーチャーネットワーク「JMRX」の講演に登壇いただき、ありがとうございました。
講演では、こちらの都合もあってバズワードである「AI」を絡めていただきましたが、実は、そういったものに左右されないのが加藤さんのすごさだと思っています。
加藤:タイトルが何であれ、大事なのは中身ですからね。私は本田技研工業(ホンダ)で、商品企画、ブランドマネジメント、プロモーションの成功確率をどう高めるかといった戦略立案・効果検証に取り組んでいます。
牛堂:早速ですが、加藤さんが考える「価値づくりの基盤」について教えてください。「存在意義」「価値の考え方」「組織のあり方」「個人の働き方」の4つの柱があるということですが。
加藤:前提として、何のために会社が存在しているのか、「存在意義」を共有することが重要です。そうでないと、様々な”正義”が生まれてしまい、議論や活動がかみ合わなくなる恐れがあります。
次に、価値をつくるためには、何が価値なのかを理解していなくてはなりません。この2つがメンバー間で共有認識できたら、具体的なプロジェクトが進められます。その時に、組織と個人がどう動くのかが求められます。
会社の存在意義は、顧客の創造。
そのために何をするのか
加藤:では、会社の存在意義とは何か。経営学者のピーター・ドラッカーは「顧客の創造」と定義しています。言い換えると、利益は目的ではなく、事業を存続するための手段であるということです。
そのために重要な機能は、マーケティングとイノベーションと述べています。
牛堂:ただ、その言葉は、解釈が統一されていませんよね。
加藤:はい。しかし、ドラッカーによると、「販売を不要にする価値づくり」がマーケティングであり、「新しい満足の創出」がイノベーションと言われています。イノベーションは、「満足度の向上」ではなく、「新しい満足」というのがポイントですね。つまり、「顧客の潜在的な(自分で言えない)困りごとを解決し、顧客におのずと選ばれる」状態をつくることに他なりません。
牛堂:テレビ広告がマーケティング、技術開発がイノベーションと認識し、利益を上げるために活動してしまうと大きな差が生じてしまうのですね。
加藤:したがって、口癖が「それって儲かるのか?」や「競合に勝っているの?」ではなく、「(潜在的に)顧客は困っているのか?」にならないといけないですね。特にプロジェクトのトップの第一声がそこになれば、皆の目指す”正義”の方向性が合い、議論がしやすくなります。
牛堂:顧客満足度調査を続けていると、満足度がそれほど上がらなくなってくる地点があります。その段階に到達したのに、そこから満足度を1~2ポイント上げるために時間とコストをかけることに意味があるのか、と思うことがあります。
加藤:すでに存在している機能等の満足度を伸ばそうとすると、結局、「スペックを上げよう」「新技術を搭載しよう」という結論になってしまいがちです。社内で「新しい満足」を理解してもらうことが大切です。
牛堂:「何かひとつ新しいものを追加しなくちゃ」がメインになってしまう商品開発は存在します。以前のいわゆるガラケーの携帯電話に関しても、写真を送信する機能が登場した以降、新機能が追加されても顧客の評価はそれ以上にはならず、頭打ちになってしまいました。
加藤:会議の場で、スペックや満足度のチャートを見ながら、全方位で伸ばそうとすると、そうなりがちですね。とにもかくにも、日頃から顧客の困りごとを意識できるトップがいる組織、チームは非常に強いと思います。
出発点は、顧客の「困りごと」を
解決するコンセプト
加藤:存在意義を共有できたら次は「価値づくりの考え方」です。
価値づくりの出発点はコンセプトです。つまり、「どんな困っている人に、どんな価値を、どうやって」の定義です。
なお、「困りごと」は、実用面だけでなく、心理面も重要です。有名な例ですと、スターバックスの「サードプレイス」というコンセプトは、「出かけた先で少し疲れたときに、くつろげる場所がない」という困りごとを解決したものです。
牛堂:「困りごと」って、とてもわかりやすい言葉ですね。
加藤:「困りごと」は、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授の言葉だと「ジョブ」と言われたりしますが、要は「めんどくさいこと、嫌なこと、顧客自身で工夫して対処してしまっていること」などを指すと思います。
日本から新しい満足が創出されないと言われる要因には様々な指摘がありますが、その1つにコンセプトが曖昧であることが考えられます。
牛堂:ジョブ理論ですね。そして、コンセプトの件は他国では違うんですか?
加藤:私がお会いしたシリコンバレーの方々は、「こういう困っている人がいて、その人にこういう価値を提供すると、こういう世界になる」と、楽しそうに話すなと感じました。
同時に、失敗談も言えるんです。「前回は、こう考えてやってみたけど、それは本当の困りごとではなかった」「このやり方だとダメだった」というように。「困りごとを考え、魅力的なコンセプトを提示し、優秀な人とお金を集め、すぐに手を動かしてトライ&エラーを繰り返す」力が競争力なんだと思います。
牛堂:そのような試行錯誤を迅速に行う「リーンスタートアップ」という方法がありますが、実際にそういうことを常日頃からやっているんですね。
加藤:そうした企業と、AIをやりたい企業では、どちらが顧客の創造をする確率が高いかは一目瞭然かと思います。
牛堂:マーケティングの現場でも、調査は手段なのに目的化してしまい、調査の実施やその方法にこだわってしまうことがあります。
加藤:コンセプトをつくる際には調査が必要な場合もありますが、フォード・モーターの創設者ヘンリー・フォードやアップル社の共同設立者スティーブ・ジョブス、ホンダの創業者である本田宗一郎といった先人たちは、「顧客に“何がほしいか”を聞く市場調査は意味がない」と言っています。なぜなら、顧客は普段、そんなことを考えていないと。
牛堂:調査の方法や活用の仕方にも課題があるわけですね。
加藤:事象やデータを観察して困りごとを考え、仮説をつくり、顧客の知覚で仮説検証することが調査であるべきで、顧客に聞くだけの調査はなくしていかなくてはなりません。マーケティング戦略家のアル・ライズやジャック・トラウトは、「マーケティングの価値づくりにおいて、顧客の知覚こそが現実で、その他はすべて幻である」と言っています。
牛堂:「顧客の声を聞こう」と利用者からの改善要求ばかりに目を向けてしまうと、細かなことで手一杯になってしまい、ごちゃごちゃになってしまいがちです。
加藤:顧客にそのまま聞くのではなく、「顧客の知覚で検証し、そこで感じた事や購入意向を聞く」ことが重要だと思います。
仮説なき議論と調査は、お金と時間の無駄
牛堂:価値づくりにおけるコンセプトの設定には仮説が必要ですが、以前の講演で「仮説なき議論は世間話にすぎないし、仮説なき調査は金持ちの道楽」という言葉が印象に残りました。
加藤:まず前提として、仮説には因果関係があるべきです。「こういうことに困っているだろうから、これを解決したら顧客は喜んで買ってくれるだろう」と考えることが仮説ですから。
ただ、ゲーテも言っていますが、仮説という足場は作業する人になくてはなりませんが、足場を建物だと錯覚してはいけないのです。
牛堂:仮説をたてることは必要ですが、一度たてた仮説が間違いだと気付いた時、それを認めるのは勇気がいりますね。
加藤:そうならないよう、客観的に現状を把握し、そこから主観的に考えて、その仮説を冷徹なほど客観的に検証する必要があります。
牛堂:客観的な視点は大切ですが、「商品企画をするなら、自分でも使いたいと思う商品を企画しろ、または好きになれ」という意見もありますが。
加藤:その商品が好きでも、嫌いでも、関心がなくても、私はなんでもいいと思います。ただし、大切なことは、顧客の目線に立って困りごとを自ら考え、それを客観的に検証できることです。もし、好きという感情で、思い込みが生じ、バイアスのかかった検証をしてしまっては意味がありません。同じく、関心が無いために、その商品を通じて、顧客の困りごとを解決するモチベーションが保てないなら、その仕事に向きません。
コンセプトを一貫し、
かつ高い知覚品質で具現化する競争力
加藤:コンセプトができたら具現化です。ただ、注意するべきは、最新技術や飛び道具を使って一発逆転的な発想をしてしまうことです。コンセプトそっちのけで、流行の手段にこだわってしまうと、手段が目的化してしまう典型的な例になってしまいます。
牛堂:日本企業は、技術のすり合わせには強みを有しますが、コンセプトを基にした具現化が不得手と言われます。コンセプトに合致しない機能まで搭載してしまうと、一貫性のない商品となります。その結果、せっかくの高度な技術を不発で終わらせてしまうケースも見られると指摘されています。
加藤:おっしゃるとおりです。技術のすり合わせという強みを、コンセプトと具現化のすり合わせに活かしていくことが必要ですね。
なお、コンセプトを具現化するにあたり、知覚品質が重要になります。いろいろな定義がありますが、簡単に言うと「なんとなくいい」と顧客に感じてもらう力だと思います。その構成要素の柱は、デザインとUX(User eXperience)です。
この2つは強力な”手段”ですが、コンセプトなく、「とりあえずおしゃれにしよう」とか、「とりあえずUXを上げよう」とプロジェクトを進めてしまうケースが危険です。
出発点であるコンセプトを、どんなデザインとUXで具現化するか、この一貫性が大切です。
牛堂:これ、本当に難しいですよね。
コンセプトを反映させていく過程で、現実の壁に当たることがあります。そういう時に突き通していくにはどうすればいいのでしょう。
加藤:プロジェクトのトップの意思が必要です。どんなに部下がやろうとしても、決定権を持つ人が覆したらそれで終わりです。トップがコンセプトとその具現化、価値づくりの仕組み、顧客志向の考え方を持って一貫した意思決定をしてくれるかどうかです。
牛堂:それには、この商品がどんな商品で、どのような困りごとを解決するのか、ブレずに発信し続ける人が必要ですね。
加藤:そして、それを具現化できているか、とにかく検証し続けます。検証した結果、成果が芳しくなかったら、差し戻す決断 をできるか否かも大きな分岐点です。
牛堂:そういえば、先日ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に行ってきたんですが、例えばハリーポッターのエリアはアトラクションに乗らなくても楽しいんです。映画やキャラクターを細部まで再現し、その世界観を表現するというコンセプトが行き渡っていると思いました。
加藤:神は細部に宿ります。USJに世界最速のジェットコースターがあるわけでもなく、世界一の高さを誇る何かがあるわけでもないのに、あれだけの人気を保っているのは、コンセプトを徹底して具現化しているからだと思います。
牛堂:まさにそれを実感してきました。
組織は3つの落とし穴に気を付ける
加藤:価値を具現化できたら、次に考えるべくは組織と個人のあり方についてです。まずは組織ですが、これは戦史研究の書でありながらビジネス書としてベストセラーとなった『失敗の本質』で的確に指摘されています。書籍では、様々な指摘がありますが、中でも失敗する組織の要因として、
・あいまいな目的
・合理主義ではなく人情主義
・過去の強烈な成功体験
の3点が大きいと感じます。
牛堂:「あいまいな目的」といえば、現場に数値目標だけが降りてきて、なぜその数値が算出されたかがわからない、というケースは多いですよね。
加藤:そこが存在意義に立ち戻るところなんです。企業が存在する意義は、顧客を創造することです。それを踏まえ、明確な目的を定義していないプロジェクトがとても多いと感じています。こんなことをしている、とお聞きしたプロジェクトに「目的はなんですか?」と聞くと、コトづくり、シェアリングエコノミー、パーソナライズ、オープンイノベーション等の単語が出てくるのですが、顧客の困っている顔が見えないのです。
プロジェクトメンバーが、意義のある目的を即答でき、その達成に向けて進んでいる組織は強いです。
牛堂:目的があっても、うまくいかないパターンもありますよね。
加藤:それは、意思決定をするときに、合理主義ではなく人情主義になってしまうからでしょう。あるいは、過去の成功体験に引きずられてしまい、今の課題に対する適切な議論から離れてしまうことが考えられます。せっかく合理的な根拠を提示して議論しようとしているのに、感覚論や精神論で反論されてしまうケースもあるかと思います。
最悪なケースは、人情主義や感覚論で決定された戦略に、後付けで都合の良い数字を付与し、合理的を装うことです。
牛堂:日本人って議論がヘタですよね。攻めるか守るか、A対Bのようになってしまいますよね。もっと、議題に対して真摯にできるといいのですが。
加藤:多様な視点からの議論は、狭い視野に陥らないために、非常に有意義な過程ですね。
一方で、ブレストに関しては、僕は反対派なんです。なぜなら議論とは、共通の目的に対して、考え抜いてまとめ上げてきた、魂のプレゼンをぶつけ合い、それらをもとにさらに考える場だと思うからです。ところが、大体においてブレストは、目的が曖昧なまま、とりあえず人を集めて、とりあえず話してみましょうと始まることが多いと感じます。
牛堂:役職が上がっていくと、会議などが続き事前準備もできないままに会議に参加しなければならないというパターンがあると聞きます。
加藤:その場で、何の材料もなく参加している人たちでブレストをしても、すでに先人が考え、取り組んできた内容以上のものは出にくいと思います。
先人の知恵を利用しながら考察していき、そこからさらに知恵を絞って考え抜くことで、有意義なものが見えてくる。そのうえで、その考えを数人でぶつけ合うことで、より高いところへ行く。それが議論のあるべき姿だと思います。
牛堂:実は、ブレストは弊社の文化のひとつでもありまして、やはり仮説を立ててブレストを行っています。それは、私たちに元々その商品の知識であったり、調査の知識であったり、基礎となるものがあるからこそできていると思っているのですが。
加藤:プロジェクトに染まっていない、様々な専門家に、率直な意見をぶつけていただく場も重要だと思います。どんな人でも、長くプロジェクトに入ると、だんだんと視野が狭くなる危険がありますので。私も、学者や他業界のマーケターの方々に、有意義な意見をいただく場を大切にしています。
牛堂:我々も、消費者行動論や社会学の専門家を有しています。顧客である企業様の事情やこれまでの経緯を置いておき、そうした知見から率直な意見をぶつけて、より良いものにしていけることが、強みだと思っています。
加藤:会社の事情やこれまでの経緯を”無視”し、率直に意見をぶつけていただけるのは、「価値」ですよね。マーケターには、「プロジェクトに染まってしまい、いつの間にか会社の事情を顧客の事情とすり替えて思い込んでいたり、仮説を建物だと思ってしまっている」という困りごとがありますので。
理論だけ、思考だけでは立ち行かない
加藤:最後に個人の働き方です。ここでも先人の言葉を借りますが、孔子は「学びて思わざれば則ちくらし、思いて学ばざれば則ちあやうし」と述べています。つまり、理論を学ぶだけで、自ら考えることをしなければ、その理論を活用することができない。自ら考えるだけで、理論を尊重しなければ、狭い視野に陥いって有意義な結論にたどり着けないということです。
人間1人で考えられるコトなんてたかがしれてますから、狭い視野に陥らないよう”巨人の肩に乗り”、そのうえで自ら考え抜き、ただひたすらに手を動かして検証することが、個人の働き方のあるべき姿なのだと思っています。
牛堂:巨人の肩というのは、「先人の積み重ねた発見の上に、新しい発見をすること」を指す言葉ですね。アカデミックに関していうと、私もよく学会に行くのですが、企業の参加者は少ない印象があります。もっと色々な方に来ていただきたいと思っています。ジャーナルには、まだ世の中で解決されていない課題を見つけ、解決する方法や考え方も示されています。それって、ものすごい大きな知見ですよね。
加藤:「課題を見つけ、解くべき問題を定義し、(より良い)解決策を提示し、その妥当性を科学的に検証する」というプロセスは、まさに価値づくりのプロセスです。博士号を有している方は、専門知識を有していることはもちろんですが、その問題解決能力の高さが強みなんだと思います。企業であっても、個人の価値づくり能力を高めるために、研究をすることは、非常に有効な手段になります。先人の知を覚える勉強と、課題を解決する研究には、大きな差があります。
牛堂:日本は、研究や博士を大切にしないと言われますが、課題解決の提案ができない弱点の要因でもあるかもしれませんね。そして人間の社会では、全て合理的に話が進むことは難しいという面もありそうに思えます。
加藤:そのとおりです。そこで、よくお話するのが、顧客視点の合理的な判断ができ、かつ人や空気を動かすダークサイドスキルを有するトップの有無がカギになります。先ほどトップの意思の話をしましたが、顧客視点の合理的な判断ができるだけでは、チームがまとまらない可能性があります。一方、ダークサイドスキルを持つだけでは、誤った判断で突き進んでしまう可能性があります。
牛堂:確かに、大企業では、革新的であればあるほど否定的な反応になる、イノベーターのジレンマに直面することが多いです。両者を備えたトップがいることは、イノベーターのジレンマを超える、1つの要因になり得ますね。
加藤:勝海舟も言っていますが、幕末に西郷隆盛や大久保利通が活躍できたのは、島津斉彬や島津久光がその環境を用意したことが大きいです。
牛堂:ブレインとなる人からすれば、こうしたトップを見つけられるかは、プロジェクトの成否に関わってきますね。
「困りごと」はなくならない
牛堂:ところで、大切なのは「困りごとを見つける」ことですが、なんでもある今の時代に見つけるのは、容易ではありません。
例えば、昔は電球が各家庭になく、夜は暗いものでした。そこで、松下幸之助さんが日本中の家庭を明るくすることを目的に事業を行いました。これは困りごとの解決ですよね。でも今は、すべての家庭に照明があります。
加藤:昔はないものがいっぱいあったので、困りごとが見えやすかったとは思います。でも、新しいものが生まれた時、それですべてが幸せになるような「完全なもの」であることは少ないのではないでしょうか。必ず、新しい困りごとが生まれるはずです。
牛堂:以前、ある方に社会的な課題をNPOが解決していったら課題がなくなり、NPOは解散することになるのかと聞いたら、「解散しても良いと思いますが、大体において新たな課題が生まれてきます」と言われました。これは、他のビジネスでも共通ですよね。見えにくくても、新たな課題は常に生まれているんですよね。
加藤:そうですね。それをいかに見つけていくのか、試行錯誤と検証の繰り返しです。顧客の困りごと、まだ解決されていない課題に対して、私もひたすら手を動かします。
企画者からの一言
対談インタビュー第5回、いかがでしたでしょうか。講演でも一貫したロジックを持ち、ブレのない加藤さんのスタンスには学ぶものが多く、今回の対談でもそれを強く感じることができました。また、どんな質問にも即座に適切なご回答を頂けて、その点も含め大変楽しい有意義な対談となりました。
記事中では短いコメントになっている、「歴史に学ぶ、組織の中での動き方」など興味深いお話が満載でしたが、一部の掲載にとどまっていますので、続きが気になる方はぜひご本人に触れる機会を作っていただければ…と思います。
次回の対談では、弊社の元社長である澁野(しぶの)が登場予定です。澁野はシニア、介護に知見があり、施設訪問や介護の現場を見るような調査も数多く行う、シニア・介護分野のエキスパートとなります。ご期待ください。